バイタルモニターのアラーム設定

病院に救急搬送されると、バイタルモニターが付けられる。

バイタルとは、体温や脈拍、血圧、呼吸回数、血中酸素飽和度の他、尿量なども含まれると言われたりするが、
要は、体の状態を数値で計れるものを数値で出して評価しよう、という訳だ。

これは体の状態を反映することにもなり、
例えば熱がある時は脈拍が速くなるし、体温も上がる。しかし、熱が下がれば脈拍も体温も正常値(とここでは言っておこう)に落ち着く。
肺炎などで息が苦しい時は熱も上がり、脈拍も呼吸回数も早くなり、血中酸素飽和度が下がるが、治療で治ってくれば熱も下がり脈拍も呼吸回数も血中酸素飽和度も正常値に落ち着く。
こういう風にバイタルを計ることで、その患者の状態をある程度推測することもでき、また継時的にモニタリングすることで、その患者の状態が良くなろうとしているのが悪くなろうとしているのかもある程度推測できる。

ちなみに、バイタルモニターには「アラーム機能」が付いている。
それぞれ自分たちでアラームを鳴らす閾値を自由に設定できるようになっており、例えば脈拍が1分間に150回を超える様ならアラームが鳴るように自分たちで設定できる。
しかし、実際にはなかなか一人一人の患者さんに対してアラーム設定をしていなかったりする。

 

ところで、救急外来にやってくる患者さんは基本的には状態が悪い。
すると普通のアラーム設定がされている患者にモニターを付けるとアラームが鳴り続ける。
例えば、普通の人が脈拍50-100回/分が正常だとして、その患者が不整脈で150回/分の脈拍だったとすると、アラームの閾値を100回/分以上でなるように設定されていれば、その患者の状態が改善するまでアラームは鳴り続ける。

さて、ここに医療ミス(?)の温床がある。

アラームが鳴るのは患者の状態が悪いからだが、その患者の状態はすぐに改善できるわけではないとする。
そこでアラームを鳴らし続けるとうるさいと考え、モニターのアラーム音を消してしまうバカがいる。そもそも何のためにアラームがあるのかを理解していない者の愚行だ。
その結果、脈拍がさらに増えていてもアラームが聞こえずに無視されてしまう。当然、心臓が止まっていてもアラームに気付かず無視をされる…。

それ以外には、アラームの音に鈍感になってしまうことも多い。
肺炎などで体に取り込まれる酸素が少ないとする。すると、やはり異常値が出てモニターのアラームが鳴る。
しかし「もともと酸素飽和度は低いからアラームが鳴るのは当たり前」と思い込んでいるスタッフは誰も気が付かない。
その結果、心臓が止まっていても誰もそのアラームに気付かない…。

こういった事例はおそらく、どこの病院でも起こっていることと思われる。
その極みが、「モニターが付いてるのに、気が付いたら冷たくなっていた入院患者」というパターンだったりする。
モニターを遡って解析してみると、何時間も前から心臓が止まっていたにもかかわらず、誰もその異変に気づいていなかったりする。

これではモニターを付けている意味が全くないと言っていいだろう。

 

では、どうやってこういったミスを事前に防ぐことができるだろう?

それは「バイタルモニターのアラーム設定を一人一人設定すること」である。

体の状態が悪い病態があって脈拍が120回/分になっているなら、アラームが鳴る閾値を「140回/分以上または、100回/分未満」で鳴るように設定する。
この意味は、治療過程で現状の120回/分やその前後でアラームが鳴る必要性はなく、それでも治療効果がなくて頻脈になった場合や、逆に改善してきた場合にアラームで察知できるようにすることを目的としている。
他に、肺炎で酸素飽和度が低い人が例えばSpO2 88%でアラームが鳴っていたとすると、アラームの閾値を「SpO2 85%未満」で鳴るようにし上限は設定しないこととする。
この意味は、治療過程で酸素飽和度がさらに下がるようなことがあれば酸素の投与量を増加させるなどの処置が必要になるが、治療効果が出て酸素化が改善する分にはアラームが必要ない、という考えによる。

このように、バイタルアラームを設定することで、不要なアラームが鳴ることはなく、
今まで鳴っていた不要なアラームに耳が慣れてしまい「肝心のアラームが鳴っていても気づかない」なんてこともなくなるだろう。
本当に必要な時にアラームが鳴るようになれば、患者の状態変化にすぐに気づくようになるし、外来や病棟での患者の急変を未然に察知することも可能となる。

 

こういう一人一人に対する患者管理ができるかできないかが、病院が三流か二流以上かに分けられることになるだろう。
少なくとも、モニターを付けるような「バイタル管理が必要」な患者にまともな設定もしていない様では「三流」と言われても仕方ないと思ってしまう。

それを少しずつでも教育指導していくのは、それに気づいている者たちの役目だと思っているが、もうちょっと他のスタッフも気づいて欲しいな…。

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