日々増える救急要請に、要請から現場着までにかかる全国の平均時間が年々増加している。
高齢社会による罹患率の増加や、タクシー代わりに呼ぶモラルの低下など様々な問題があるだろう。
その結果、本来なら救急車で速やかに搬送されるべき傷病者に辿り着くまでに時間を要してしまい、救命できていないのではないかと危惧されている。
それらの問題に対して、東京消防庁を始め、各地の消防も様々な対策を講じているが、なかなか決定的なことはない。
その対策の一つに出動要請に応じて救急車を出すかどうか判断したり、実際に搬送するかどうかを現場で判断したりする「搬送トリアージ」がされている地域もある。
出動させる回数が減れば、当然搬送が必要な傷病者に救急車を用いる事ができる様になり、画期的なシステムのように思われる。しかし、そのトリアージの難しさを露呈させた事件があった。
2011年秋に山形大の2年生(当時19歳)が体調不良を訴え救急要請するも、電話を受けた司令室職員は「自力で歩行できる」と言った大学生に対して「タクシーで行けますか?」とタクシーで医療機関を受診することを促し、結局翌日に自宅で死亡、後日遺体で発見された。(現在、裁判所で係争中)
おそらくは若いから「歩ける」と聞いた司令室職員は「軽症」と捉えたのだろう。
結果的にはそれは軽症ではなかった事になるのだろう。
日常の診療の中でも、診療前の看護師によるトリアージでも、様々な場面で本来緊急度が高い患者のトリアージ・レベルが低く見積もられる「アンダー・トリアージ」というのは起きている。
ましてや、電話口だけでのトリアージはなかなか困難だ。
結果的に若い命が失われたのは、残念の極みである。
統計学的にはアンダー・トリアージは必然であるが、その低く見積もられてしまうのを極力回避する努力もトリアージを実施する側には求められる。
特に電話だけでの問診は不確定性が高く、診療に従事する医療従事者ならおそらくほとんどの者が「医療機関で診察を受けて貰ってね」と言うはずである。
救急要請をすると言うことはよっぽどであることが多く、その前提から見て「明らかにタクシー代わり」と思われる要請以外は出動するのが望ましいのではないかと思ってしまう。
医療従事者である救急隊はもちろん、人命に対して強い使命感を持って従事していると思っている。
それ故、今回の事例を反省症例として、今後の人命救助に役立てて貰いたいと切に願う。