およそ9年前まで、医学部を卒業し国家試験に合格した新米医師は、ほとんどが大学の何かしらの診療科に入局し、そこで「研修医」として2年間を過ごす。
その間、他院の当直バイトなどを経験し、そこでの救急診療を経て、救急医療・医学を学んできていた。
時に、自分の専門外かつ未熟なことで対応できないことは多々あり、患者自身もそうだが研修医自身が冷や汗をかくことがしばしばあった。
そういう風に最初から専門科に入局した医師は、その診療科以外の勉強をまずすることはなく、自分の専門以外の疾患に対応できなくなってしまう。
結果、医師免許は持っていても心肺蘇生できない医師や、小児の診療は一切できない医師、傷の縫合さえできない医師はたくさんいた。
そういう事態に危機感を抱いてか、国民医療費削減を目的とするなんて裏話もあるが、およそ8年ほど前から「初期研修の義務化」と言うのが始まった。
免許を取得したばかりの医師は、2年間を研修指定病院で研修し、修了しなければ、その後の保険医療や開業などに制約を来すというものだ。
初期研修を義務化し、多くの診療科を回ることで、様々な疾患に触れる機会を持とう、という意図があった。
しかし、実際にはその趣旨はしっかりと履行されていない。
今までの制度では、入局してきた新米医師は、今後の自分たちの後輩として成長し、その専門科で食っていけるだけの技量を身に付けてもらわなければならないという観点から、その医局に属する先輩医師たちから熱い指導を受けていた。その中で、研修医たちも様々な課題を課され、任されたり責任を負わされたりすることで成長していた。
しかし、今の研修義務化後の研修医に対しては「将来どの科に進むか分からない」と言うのもあり、また制度の中で「9時~5時で終了」「給料の保証」などが強調されてしまい、お客様扱いになっている感もある。
実際、学生時代の臨床実習と変わらないような研修しかしていない所もあったりで、研修の質としては緩くなったと言わざるを得ない。
その結果、初期研修を終えた医師は、かつてに比べれば頼りない部分が多い。
当院では8年前に研修が義務化される前から、多診療科を回るスーパーローテートと言われる研修をしており、また夜間には自分が所属する診療科とは関係なしに救急外来の当直をすることが義務付けられており、その為に多くの症例に触れる機会があった。その中には、初期研修医しかいない救急当直も多々あり、おそらくはかなりいい加減な診療しかしていなかった可能性も否定はできないが、各診療科の当直やオンコールのバックアップがあり、何とか乗り切っていた。そんな研修を通して先輩医師たちは強く逞しく医師として成長している。
最近では、そういういい加減な診療をさせるのは望ましくないとの観点から、中堅以上のスタッフが付くようになっている。
その為に、かつては救急当直の責任を担っていた2年目研修医でさえ、かなり中堅以上のスタッフに依存する傾向があり、頼りない印象を受ける。
それでも当院では研修医たちをお客様扱いはせず、彼らに責任を負わせる形で仕事をさせるために、彼らには医師としての責任感が芽生えてきているのは見て取れる。
なかなかどこまでさせるべきかは難しい所だが、責任を負わせて放置させる訳ではなく「任せる」ことで、彼らは成長できると考える。
彼らが今後もしっかりした医師に育つよう、また同じように後輩を指導する立場に立った時にその任を果たせるように、
彼らがどこの診療科の医師になるかは知らないが、僕らがしっかり指導しなければならないと思っている。